図書館アロマコロジー
香りは0.2秒で脳に届きます。そして、人間の情動に影響するため、一瞬で気持ちを切り替えたり、沈んだ気分をポジティブなものに変化させます。また、嗅覚は記憶を司る海馬に直結しているため、香りの刺激で脳を活性化させることで、認知症を予防する研究も数多く発表されてきました。そして2014年に実施した図書館の快適性を探るアロマコロジーの検証では、香りと自然音を図書館に導入することで、人が感じる心地よさが大きく改善されることがわかりました。香りも音も目には見えませんが、自律神経を整えたり、集中力を向上させるなどの研究も発表されています。私たちは約10年前から香りや音の*感性デザインを図書館に導入し、その効果や活用法を検証しながら、図書館のいごこちを向上させたり、集中力や想像力をサポートするアロマの研究開発をしています。
*感性デザインとは、人間の五感を有効的に組み合わせて空間や人のアクティビティーをデザインするデザイン領域です。
「アロマコロジー」とは、芳香を意味する“アロマ(aroma)”と、生理心理学を意味する“フィジオ・サイコロジー(physio-psychology)”をあわせた造語で、香りの生理心理的効果を科学的に実証し、香りの効果を生かすための「香りの活用術」です。



図書館内に設置してあるしおりに、お好きな香りをワンプッシュしてお持ちください。しおりのQRコードは、当アロマコロジーウェブサイトにつながっており、各ブレンドの説明、香りの有用性、安全性などが詳しく記載されています。しおりの香りは2、3日残りますので、お持ち帰りになってください。
香りで科学的にハッピーな気分をサポート
専門的な香りの調香や原料のセレクションのため、香りの効果性に関する研究論文を世界中から 収集し、専門家チームでその研究結果の信頼性を検証しています。発表されている検証内容や研究結果から、体をリラックスしたり、心理状態の向上が期待される芳香成分を選択し、 それらの成分を基軸にグローバルに活躍する調香師が香りを調香しています。また、感性工学の客観的評価結果を元に、使用される空間や時間に合わせて最適な香りを選択しています。
FOCUSとCREATIVEの香りに使われている香りの原料は、次のような研究結果をもとに選択しています。
ペパーミントは記憶力の向上と気分の覚醒( Mark Moss et al, 2008) ローズマリーは記憶の質と補助記憶のパフォーマンスの向上( O.V.Filiptsova, 2018)オレンジは、不安レベルを低くし、ポジティブな気分をもたらす(Lehrner et al, 2000)、主観的な注意力・覚醒度の増加(Hongratanaworakit et al, 2005)、疲労度の軽減 (Ahmadya et al, 2019)、イライラしない・活力の増加など気分の改善(熊谷ら , 2015)が検証されています。ベルガモットは主観的にボジティブな気分 へと変化(Han et al, 2017)、ヒノキは、肉体的疲労後に好ましさ増加(Sugawara et al, 1999)、副交感神経活動が増加・主観的 な快適さも増加(Ikei et al, 2015)という研究結果が発表されています。




図書館のいごこちも香りによって影響されます。
2014年に行った検証では、空間に合った適切な香りを導入することで、無臭の時より図書館全体のいごこちが向上することが示唆されました。このような検証結果を元に香りの心理作用を専門的に分析して、10年以上前から図書館でアロマの導入が始まっています。
下記の図書館では快適性の向上を検証されたアロマを導入しています。
全国の公共図書館をランダムに23館選択し、図書館の快適性を向上させる空間の音と香りの検証をしました。各空間ごとに*マルチモダルの組み合わせをSemantic Differential法(SD法)を用いて評価し、*主成分分析を実施して図書館の快適性向上に必要な要素と、最適な香りと音の組み合わせを数値化しています。
感性工学を適応させた図書館での空間アロマと評価検証は、国際時空間設計学会 国際シンポジウム(2015) で発表されました。

【研究結果の概要】
感性工学を適応させて空間アロマと音響を評価し、図書館の快適性を向上させるための最適な聴覚刺激と嗅覚刺激の組み合わせを検討した。公共図書館23館において空間の快適性を向上させるための要素を評価した結果、「新しい」「広い」「リフレッシュする」「インスピレーションがわく」という要素を香りや音で向上させると全体的な快適性が改善された。また、静かな図書館が好ましいとされていても、図書館の空間に「静かな」と「冷たい」という印象が重なると、ここち悪い図書館として評価された。図書館によって空間デザインが異なるが、客観的指標を持ってアロマや音響を選択することで、図書館のいごこちが向上することが可視化された。
香料のグローバル安全基準と拡散技術
使用している香りは全て、国際香粧品香料協会(International Fragrance Association;IFRA)のグローバルな安全基準に沿って製造されています。
国際香粧品香料協会(IFRA)とは、世界の香料原料の安全基準のガイドラインを設定する機関です。IFRAは3000種類以上ある香料原料の安全基準を毎年アップデートしています。日本では空間アロマは雑貨として取り扱われているため、法律上は何の規制もなく販売や設置は可能ですが、多様な嗜好性がある中でも安心して使っていただけるように、私たちの取り扱うアロマは全てIFRAの安全基準に沿って製造されています。そして毎年アップデートされる香料原料の安全基準の情報を調香師がチェックして、常に安心して使える高品質なフレグランスで空間演出をしています。
香料原料の基準だけでなく、香りを演出する空間においても、専門家が空間の換気状況や風の流れを確認した上で、専用ディフューザーで心地よい濃度に設定しています。専用ディフューザーは、香りの体験のクオリティーを高くするために加熱をしない拡散技術で繊細な香りのバランスを保ちながら空間全体をほのかに香らせています。

空間アロマ
全国約600館の公共図書館を運営する株式会社図書館流通センター 本社ビルでは、エントランスで季節に合わせた香りによるおもてなしを提供しています。春夏にはすっきりとした「FOCUS」、秋冬には心安らぐ「CREATIVE」を導入。
訪れるお客さまに、心地よい癒しとリフレッシュを提供します。




WEBサイト
https://www.trc.co.jp/
香りでコミュニティーをつなぐ

香りは素敵なコミュニケーションのツールとして言葉では表現しにくいメッセージを伝えてくれます。那須塩原図書館みるるでは、水族表現家 二木あいさんの展示を五感で行い、Mother Oceanという香りを制作しました。Mother Oceanの香りは那須塩原の市役所を始め地域で情報を発信している色々な拠点に設置され、香りと共に図書館での展示を広く発信しています。(那須塩原図書館みるる 二木あい展の様子)




WEBサイト
https://kdltd.jp/lp/miruru/
アロマコロジーワークショップ
香りで楽しく学ぶ
香りの使い方をアドバイスするだけでなく、嗅覚からの情報をベースに創造性を向上させる感性デザインのワークショップを開催しています。
新宿区立下落合図書館では、子育て支援のプログラムの一環として、「香りで伝えるありがとう」をテーマにした、親子のアロマワークショップを行いました。五感で感じながら創造するアロマコロジーのワークショップは、あらゆる年齢やテーマに合わせてデザイン可能です。




アロマコロジーの分野の学習
アロマコロジーの分野での研究はグローバルにも徐々に進んでおり、日常生活において香りの有用性をどのように活用できるのかの書籍や研究論文も増えてきています。「香道」などにも表れていますが、日本人にとって香りは歴史的・文化的にも大変親しみのあるものです。このサイトでは、専門家が香りや嗅覚に関する書籍や研究書などをご紹介します。

【レビュー】
嗅覚をトレーニングすることで、初期の認知症の進行を遅らせる研究をされています。認知症の症状が出始めると、嗅覚が衰えて冷蔵庫に古くなった食べ物を残し、腐り始めた食品も食べようとする現象に着目したそうです。嗅覚は記憶を司る海馬にも直結しているため、アロマによる脳の活性や日常生活でのアロマの適応法などわかりやすく書かれています。

【レビュー】
五感の中でも嗅覚はとても複雑で、感性工学の分野でも嗅覚の研究は最も遅れています。(逆に捉えると、今後新たに発展していく可能性が大きい分野です。)香りやアロマセラピーの効果性だけでなく、嗅覚全般の構造や特徴を科学的に解説している興味深い本です。少し難し目の本ですが、匂いや香りがなぜ気分を変えたり記憶に残るのか、本格的に興味がある方にはおすすめです。
感性デザインとは?
感性デザインとは、各分野のデザイナーと専門家がチームを組んで視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚を空間やプロダクト、そしてコミュニケーションのデザインに組み込んでいく新しいデザイン領域です。五感による生理機能変化、心理反応、行動変容を数値化し、実証ベースで五感の要素を客観的に判断して、特定の空間や時間のデザインに最適なものを選択します。客観的指標で選択された五感を統合してデザインしていくことで、最終的なユーザーの体験価値を向上させます。
空間デザインとアクティビティーデザイン
を融合させる
感性デザインは、空間とその場の体験を五感でつなげていく働きもします。空間アロマや音響は、空間デザインの要素でもあり、同時に利用者の活動をサポートする五感の要素でもあります。
快適性を向上させるだけでなく、図書館でリラックスしながら、リサーチや勉強に集中したり、五感で脳を活性化したり、体感から生まれる新しい学びのきっかけを作るために図書館アロマコロジーのサービスを提供しています。

感性デザイン適応
図書館アロマコロジーのサービスが導入されている図書館は、感性デザインが適応され、複数のデザイン領域が、五感で統合された状態で空間と体験を結び、より豊かなユーザー体験を可能にする目的で設計されています。情緒的で豊かな体験はその空間での出来事をポジティブにし、より長く個人の記憶に残ります。
空間の目的に合わせて施された内装デザインに対して、同一空間でのユーザー体験を最適化する香りを客観的に印象評価し、選択しています。デザイナーや決定者個人の香りに対する嗜好性ではなく、五感の研究機関である KPC が快適性を向上させる空間アロマの評価工程を設計し、客観的に香りサンプルを比較して、最適な香りを選択しています。
五感の研究機関である KPC が香りの原料やそれぞれの香りが想起するイメージの言語分析を行い、感性デザインが施された空間での香りの体験をロジカルに理解できるメッセージ開発を行っています。
アロマの効果性を検証する研究結果の信頼性を専門家チームで評価し、生理機能や心理状態がポジティブに影響する原料を選択しています。アロマの有用性や安全性など利用者の皆さんが安心して過ごせるようにアロマコロジーウェブサイトを通じて情報を可視化しています。
香りを使った感性デザインワークショップを実施し、体と心の健康のための使い方を学習。来院する方の香りに対する知識向上だけでなく、嗅覚を使った創造性向上のデザインワークショップも組み込むことで、楽しくコミュニケーションしながら健康や創造性について交流を深める場を提供します。
香りを体験する空間にQRコードが入ったカードを設置。
QRコードより誘導させる特設サイトで香りのデザインを解説。複雑な香りの説明を現場スタッフが対応する必要がありません。
図書館での香りについての質問・お問い合わせは直接専門家チームが対応します。